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その先がユートピア

ちょっと長い演目だったせいか、疲れているのだろうと横目で見ると、
コイビトはいつもよりちょっと難しい顔をしている。
「どうした、紫龍」と、
どさくさに紛れて手をつないでも振り払うことなく真っ直ぐな視線で、シュラを見つめ返す。

「疲れたか?」
「いえ、そうでもないのですが……」
「じゃあ、腹でも減ったか?」
「まあ、少しは」
「おや、珍しい」と、云っても夜も随分、遅い。とりあえず手近なカフェに入り、
ホットサンドと温かいミルクティーで小腹を満たすと落ち着いたのか、
「さっきの……」と、紫龍は不意に切り出した。
「うん?」珍しいコイビトの苦虫を踏みつぶしたような顔は、しかし、美人には変わりない。
「さっきのお芝居の三本目の、二幕の終わり――――」
「どこだっけ?」
 改めて確認するのも無理はない。
 なにせ、休憩込みで10時間20分。
ロシア革命を中心に19世紀の思想家と革命家から見た
20年間の闘争を描いたストレートプレイの記憶を引き出すには少々、時間が掛かる。

「思想家の妻が眠るお墓で、雨の日で、百合がたくさん埋まっていて……、
お墓に佇んで、綺麗で、昔話をしていたはずなのに、思想家と奥さんの友人が……」
「ああ、そのまま出来ちゃう」
「ええ、まあ、」又、紫龍は不機嫌な顔になる。
「その何で、奥さんは確かに浮気したけど、愛しているのに、
しかも友達の奥さんと、そんなことになっちゃうんですかね」
「そうだな」

 不実を糾弾する黒い瞳。ごまかすことは許されない変わりに、男は柔らかく微笑んだ。
「だって、お前も経験ないか?」
「俺はそんなことは、絶対にしません」
「そうじゃなくて、――――ただ、見つめ合うだけで判ってしまう瞬間」

 雨の音も、理性も、誰かの存在も、
――――そして、神すらも吹き飛んでしまったあの瞬間。

「そうゆうことなら……」最後のミルクティーを飲み干して紫龍は云った。
「少しだけですが」
「少しだけなんだ」と、云って紫龍の唇についたパンくずを取る。

1.2.3と見つめ合えば。

 あの時の衝動は、もう消え失せても。
こうして、ただ二人視線を合わせるだけで、世界はもう一度。
二人きりになる。後は、降り出した雨の中に溶けてしまえばいい。



――――――――――――――――――――――――――
見た芝居の、しかも場面のオマージュ。
だけど、意味不明。後、珍しくシュラが紫龍をコイビトと呼んでいる(笑)



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2009-10-09 : 山羊龍-SS : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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